三重県から九州で真珠の核を植え付ける仕事をしていたお父さんがこの地で真珠の養殖業を始めてからおよそ36年。数年前まで9軒あった真珠の養殖業者も、今ではは3軒ほどになってしまったそうだが、その事業を受け継いでいるのが天白浩司さんだ。現在は夫婦と宇和島から通ってくる熟練の職人さんを加えた3人体制。
アコヤ貝はニガリに浸けておくと仮死状態になり口を少し開ける。そこに真珠の元となる“核”を貝の中に植え付けていく。異物だと認識して吐き出してしまうこともあるため、できるだけ薄く排出されない場所に的確に入れる必要があるそうで、かなり繊細かつ熟練の技術が必要だ。また触れている貝殻の色がそのまま真珠の色になってしまうそうで、なるべく黒くなっていない場所や貝を選ぶ必要がある。その様子はまるで手術を行うようだ。そして無事核を植えられたアコヤ貝は海水に戻すと、仮死状態から覚め以前の状態に自然と戻るそうだ。そこから海に戻すこと約1年。水温が上がると真珠に艶が出るという長年の経験から、愛南町で数ヶ月生育させた後、7月頃になると三崎沖まで養殖棚を移動させ最後の仕上がりを待つ。「貝殻を開けてみるまで分からないという緊張感はあるけれど楽しみもある。それでも大概のものには傷や歪みなどが付いていて、無傷なものは全体の5%くらいしかないんですよ」と天白さんは、難しいからこその苦難と楽しみをのぞかせる。その手のひらに大切に見せてくれた真珠の一粒一粒に、想像を超える愛情と手間がかけられているのだ。
- [ 天白真珠 ]
- 愛媛県南宇和郡愛南町平碆717-10 / TEL:0895-85-0181